第103回全国高校野球選手権福岡大会に向けて
監督 土井崇正(高41期)
拝啓
愛宕クラブの皆様におかれましては、益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。
また日頃より野球部の活動に関しまして、物心両面にわたり多大なるご支援をいただき誠にありがとうございます。
さて、いよいよ7月6日より第103回全国高校野球選手権福岡大会が開幕いたします。
本校の初戦は7月9日築上西と決定いたしました。
今年に入ってから、愛知の名門・東邦、愛工大名電、センバツ準Vの明豊、秋の九州王者・大崎をはじめ、福岡大大濠、西日本短大付、神村学園、佐世保実、佐賀商など多くの強豪校との練習試合を予定しておりましたが、このコロナ禍でほとんどが中止となりました。
実戦経験が明らかに不足している中での大会突入となります。
私が本校コーチ就任の翌年に入学してきた現在の3年生14人。非常に厳しく接して参りました。万感の思いで本大会を迎えます。
人間力の向上なくして野球技術の向上はあり得ない、というのが私の考えです。
私の長い指導者人生の中で、数多くの選手と学校を見てきました。
野球の強豪名門校に特待生で入学するために中学で硬式野球に打ち込む。
高校に入れば練習時間は長く、寮に帰ったら様々な雑用がある。
野球で活躍すれば進路が決まる。はっきり言って勉強は必要なくなってしまいます。
良いか悪いかは別にして、それはそれですごい覚悟だと思います。
一方で小倉高校は紛れもない進学校です。その我々が強豪私学と相対するにはどうすれば良いのか?日々自問自答を続けています。
進学校の選手で文武両道を掲げる人がいますが、彼らに勉強と野球は何%ずつなのかを聞くと、大抵50対50ぐらいのことをいいます。
しかし、我々小倉高校はそうではありません。
野球も100%、勉強も100%。これが文武両道です。
寝る間を惜しんででも、隙間の時間を上手に使ってでも、少しでも勉強する時間を作る。
自分ができる範囲で全力でやり切る。
これが正しい努力です。
努力は100%のものでないと意味がありません。100%で行うからこそ何かを吸収できると信じています。
逆に言うと遊びはないということです。
スマホでSNSやゲームばかりしていて、「甲子園に行きたい」、「プロになりたい」
というのは甘いということです。
本当に叶えたい夢があるのなら、我慢することは必ずあります。
何かを得るために何かを犠牲にできる強い心こそが、小倉高校生には必要です。
「大変だからやらない」のではなく、「大変だけどやる」
この積み重ねを今までやってまいりました。
この積み重ねを全部、強豪校相手に持っていく以外にありません。
それともう一つ大事にしているものがあります。
いわゆる強豪校との決定的な違い。互角に戦うために絶対に必要なもの。
テクニックの問題ではありません。
階級の違いです。
その階級を上げるには日々の生活で上げるしか方法はありません。
食事の量や質、練習量や質、知識と根気によってのみ、階級は上がります。
それをおざなりにして、表面的なテクニックで壁を越えようと考えているならば、それは遠回りする事になると考えよと伝えてきました。
壁に当たった時に大事な事は日々の生活を見つめ直し、量や質を考え直す事です。
肉体的な変化が無いままに、現状を打破する事は不可能です。
所詮は良かった悪かったの繰り返しで、根本的な解決はありえません。
だから選手に対して私はダメなものはダメと叱ります。今の子だからというのは全く気にしません。褒めて伸ばすとよく言いますが、褒められるだけで伸びた子は挫折した時に上がってこられない。逞しさがなくなっていきます。
例えば、筋力を強化するには、負荷をかけなければなりません。
負荷をかければ筋力は強くなり、それがなければ衰えていきます。
毎日走れば足腰は強くなりますが、走らなければ弱っていきます。
これは心も一緒だと思っています。
そういう意味では、本校の選手も随分逞しく成長してくれました。体の成長や技術の向上だけではなく、「気づき」が生まれてきました。
先日、本大会のメンバー発表をしました。残念ながらメンバーに入ることができなかった3年生もいます。涙もありました。苦しいでしょう。悲しいでしょう。
しかし、次の日の練習からの立ち居振る舞い、挨拶、返事、全てが素晴らしかった。
メンバーへのサポート、後輩への指導を積極的にやってくれています。悔しさや涙をこらえて。
これでメンバーが、何も感じない訳がありません。
名門校のユニフォームは、そうやって重みを増していくのです。
最後に個人的に大事だと思っているのはOBの存在です。
100年を超える歴史と伝統を誇る野球部のOB会組織の一員である先輩方がグラウンドにお越し下さって選手達に訓示いただけたら、また一層心が強くなると思います。
ただ「小倉高校を経由した」というだけではなく、「小倉高校の人間として世に出る」という気概が必要だと思っております。
私は現役時代、沖校長をはじめ中山総監督、金子監督、牧村先生、山中先生、またその他の諸先輩方にたくさんのことを教わりました。
現在も乕谷校長ならびに学校関係者の方々にたくさんのご支援をいただいております。
その全ての教えとご厚意を、野球部員が知らないまま卒業することがあってはなりません。
それを伝授するのが自分の仕事だと考えています。
今までの積み重ね全てを持って、精一杯戦ってまいります。